ようこそ、夢かふぇへ。☕️
ねぇ、
名前は忘れてしまったのに、
何年経っても覚えている人はいませんか。
以前、この夢かふぇで書いた、私が若い頃に出会ったおばあ様も、そんな一人でした。
名前は覚えていない。でも、声も、言葉も、仕事をする手も、今も覚えています。
そして私には、もう一人います。
その人の名前も、もう覚えていません。何の会社の社長さんだったのかも、今は思い出せません。でも、顔は覚えています。
そして、もう一つ。
緑色のクリームソーダを、今でも覚えています。
1|名前は忘れた。でも、クリームソーダは覚えている
ずいぶん前、
あるセミナーに参加したときのことです。
私は若い頃から、仕事に関するセミナーや研修に数え切れないほど関わってきました。
バスガイドをしていた頃から、学ぶ側として参加することもあれば、その後は自分でセミナーを開催する側にもなりました。
なので正直に言うと、その日が何のセミナーだったのか、今はもう覚えていません。
ただ、経営者の方も参加されるようなセミナーだったことは覚えています。
その日、私の隣の席に、一人の男性が座っていました。最初に顔を合わせたとき、
「あ、この方、どこかの会社の社長さんやろな」
なぜか、
そんなふうに感じたのを覚えています。
名刺を見る前でも、その人の雰囲気や立ち居振る舞いから、なんとなく伝わってくるものがあります。後で名刺をいただいて、やはり社長さんでした。
でも不思議なことに、私たちは仕事の話をほとんどしませんでした。
どんな会社を経営しているのか。
私はどんな仕事をしているのか。
そんな会話をした記憶がないのです。
ほんまに、その辺のおっちゃんと、その辺のおばちゃんが話しているような感じ。
お互い、仕事をしている人間だということは、なんとなく分かっている。
でも、そこを探り合わない。
自分を売り込もうともしない。
社長さんのほうから、ごく普通の、人情味のある話をしてくださった。だから私も構えなかった。話が弾みました。その会話の中で出てきたのが、
クリームソーダでした。
その方は、会場へ来る前に駅でクリームソーダを飲んできた、という話をされたのです。
たった、それだけの話です。
ところが私は、その瞬間に頭の中でクリームソーダを思い浮かべました。
昔ながらの、緑色のソーダ。
グラスの中でシュワシュワと炭酸が上がっている。
その上には、白いアイスクリーム。
子どもの頃に喫茶店で見たような、あのクリームソーダです。
なぜか私は、
「これ、忘れたらあかん」
と思いました。
そして、
その方からいただいた名刺を裏返して、
「クリームソーダ」
と書いたのです。
それだけではありません。私、その日の帰りに、クリームソーダを飲んで帰りました🤭
話を聞いているうちに、すっかり頭の中がクリームソーダになっていたのでしょう。
その方とは、その後SNSでつながったわけでもありません。何度もお会いしたわけでもありません。
それなのに、顔は覚えている。名刺の裏に書いた「クリームソーダ」も覚えている。そして、自分が帰りに飲んだクリームソーダまで覚えています。
今、その方の名前を聞かれても答えられません。申し訳ないけれど、忘れました。
考えてみれば、不思議です。仕事の話をほとんどしなかった人を、私は今も覚えている。
もしあの日、お互いが自分の仕事を一生懸命説明していたら。
私は、この人を今も覚えていただろうか。
2|名刺の表には「伝えたい自分」がある
多くの名刺には、会社名や役職、肩書き、連絡先など、その人を伝えるための情報が書かれています。
もちろん、名前だけを載せた、とてもシンプルな名刺もあります。何を載せるかは、その人の考え方次第です。
だから、名刺に何を書くのが正解という話ではありません。ただ、どんな名刺であっても、そこにあるのは、
「私はこういう人です」
と、自分から相手へ差し出した情報です。
私は長く仕事をしてきて、講演会や人が集まる場で、たくさんの名刺交換を見てきました。
社長さんなど、多くの人と会う立場の方になると、一度に何十枚もの名刺を受け取ることがあります。
そして会が終わったあと、机の上にそのまま残されている名刺を見たことも何度もあります。それを冷たいとは思いません。
仕事をしていれば、誰とでもつながればいいわけではない。これから関係を持ちたい人もいれば、そうではない人もいる。
当たり前のことです。
ただ、その光景を見るたびに思います。
名刺を渡したことと、
相手の記憶に残ることは違う。
少し前、AI時代のトップランナー10人を、小学生に見立てた記事を書きました。その中に登場した一人が、NVIDIA(エヌビディア)の創業者兼CEO、ジェンスン・フアンです。
AIを動かすために欠かせない半導体の世界で、中心にいる人物です。でも私は、難しい説明から入りませんでした。
8月の暑い教室。
みんな半袖なのに、
一人だけ黒い革ジャンを着ている。
「ジェンスン、今日も革ジャンなん?」
そんな場面を書きました。
ジェンスン・フアンの
経歴を全部覚えていなくても、
「ああ、あの革ジャンの人」
なら思い出せる。
私が出会った社長さんなら、
クリームソーダ。
一方は長年のスタイル。
もう一方は、たまたま交わした会話です。それでも共通しているものがあります。人は、その人について聞いた情報だけではなく、
その人と結びついた情景でも、その人を覚えている。
ということです。
3|その名刺の裏には、何と書かれているだろう
ここで私は、
「印象に残る服を着ましょう」
と言いたいわけではありません。
覚えてもらうために、無理にキャラクターを作る話でもありません。
クリームソーダの社長さんは、
「私のことをクリームソーダで覚えてください」
なんて、一言も言っていません。
ただ、普通に話していただけです。
仕事の話さえ、ほとんどしていません。
でも、その何気ない会話の中から、その人の人間味が見えた。だから話が弾んだ。
そして、その時間と一緒に、顔とクリームソーダが私の記憶に残った。
何を伝えるかは、自分で決められる。
何が残るかは、相手が決める。
私たちはプロフィールを整えます。
肩書きを考えます。
名刺を作ります。
自己紹介も練習します。
それは必要です。
でも、それだけで「相手の中に残る自分」まで決められるわけではありません。
ふとした会話。
人への接し方。
笑い方。
相手の話を聞く姿勢。
何気なく選んだ言葉。
そんなところから漏れた「その人らしさ」のほうが、長く残ることがあります。
名刺の表には、
自分が伝えたい自分
がある。
でも、その名刺を相手が裏返したとき、そこに書かれるのは、相手が覚えた自分なのだと思います。
私は、ある社長さんの名刺の裏に、「クリームソーダ」と書きました。名前を忘れてしまった今も、その言葉は覚えています。
そして今日、あなたから名刺を受け取った人が、その裏に一言だけ書き足すとしたら。
その名刺の裏には、
何と書かれているだろう。
📚参考文献
■ Allan Paivio(アラン・パイヴィオ)「二重符号化理論」(1971年)
カナダの心理学者。人間の記憶や認知における、言語情報とイメージ情報の関係を研究した人物。
言語情報とイメージ情報という異なる形で情報が処理されるという考えを体系化しました。
エストニア出身の認知心理学者。
一般的な知識として蓄えられる「意味記憶」と、自分が経験した出来事に関する「エピソード記憶」を区別して論じました。
ここまで、
お読みくださり、
ありがとうございました。
人と人との出会いは、
名刺一枚では決まりません。
何年経っても、ふと思い出す。
そんな人の記憶には、
案外、肩書きとは違うものが残っています。
また、ここ夢かふぇでお会いしましょう☕️💐
☕️ 夢かふぇ
この先の「夢かふぇ」では、歴史、政治、経済、世界の流れについても、少しずつ深く綴っていきます。
出来事を追うだけではなく、その背景にある歴史や、人が動く理由、そして、これから私たちの暮らしや仕事に何が起きるのか。
ニュースや社会の動きを私自身の視点で見つめ、一般メディアでは大きく語られない背景も含めて、夢かふぇのカウンターで語りかけるように、お届けしていきます。
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白石孝子|たーちゃん
Takako Shiraishi
#25
苦味があって、深くて、飲み終わった後に何か残る。そんな記事をここで綴っています。無料購読で、次の一杯をお届けします☕️💐








孝子さん!「何を伝えるかは自分で決められる。何が残るかは相手が決める」、ホントそうですね。肩書きより何気ない会話や振る舞いが残る。僕も「名刺の裏に何と書かれる人だろう」と考えさせられました☺️